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神戸地方裁判所 昭和31年(ヲ)467号 決定

申立人 西播酪農農業協同組合

被申立人 辻本哲久こと辻本薫

主文

被申立人が神戸市乳販売組合こと大嶋伊三太に対する神戸地方法務局所属公証人山崎敬義作成第二十一万三千百四十四号債務承認履行契約公正証書の執行力ある正本に基く強制執行として昭和三十年十二月二十一日神戸市長田区五番町一丁目七番地において別紙目録記載の物件につきなした照査手続は申立人のためにこれを許るさない。

本件異議申立費用は被申立人の負担とする。

事実

一、申立代理人は主文第一項同旨の裁判を求めた。

二、申立代理人主張の異議理由

申立人は従前兵庫県佐用郡佐用町佐用三の一三八番地の二に事務所をおき名称を佐用郡酪農農業協同組合と称していたが昭和三十年七月十八日事務所を姫路市今宿八百三十番地に移転するとともにその名称を西播酪農農業協同組合と変更したものである。

申立人は債務者神戸市長田区五番町一丁目七番地神戸市乳販売組合(代表者大嶋伊三太)に対し申立人、右組合側間の神戸簡易裁判所昭和二十八年(メ)第一一五号調停調書の執行力ある正本に基く強制執行として昭和二十九年三月十一日前記場所所在の同組合営業所において同組合所有にかかる別紙目録記載の物件(本件動産と略称する)に対する差押をなした。

被申立人は神戸地方法務局所属公証人山崎敬義作成第二十一万三千百四十四号公正証書の執行力ある正本に基き執行債務者を神戸市乳販売組合こと大嶋伊三太とする強制執行として昭和三十年十二月二十一日前記営業所において本件動産につき照査手続をなした。

しかしながら被申立人の右強制執行の執行債務者たるべきものはその債務名義たる前記公正証書上債務者として『神戸市乳販売組合こと大嶋伊三太』と表示しているところを以てすれば個人たる資格における大嶋伊三太であることは明白であるところ、申立人の前記調停調書に基く本件動産に対する強制執行における執行債務者とされたものは民法上の組合として個人たる大嶋伊三太とは別個に独立の存在を有する団体たる神戸市乳販売組合であり、大嶋伊三太は単に同組合の代表者たる地位に在つたにすぎないものであり、しかも本件動産は右組合に帰属する組合財産たるものであつて個人資格における大嶋伊三太の所有物ではないから被申立人が個人資格における大嶋伊三太を債務者とする前記債務名義に基き同人に対する強制執行として本件動産につき照査手続をなしたことが違法なることは明らかであり、かかる違法なる執行手続が維持されることによつて申立人は前記強制執行手続における執行債権者として甚大なる不利益を蒙るべき地位に在るから被申立人の前記照査手続の取消を求めるため本申立に及ぶものである。

三、被申立代理人の主張に対する申立人の主張。

昭和二十六年五月頃から大嶋伊三太等当時神戸市内において牛乳処理販売業を営んでいた同業者数名の者が、牛乳処理販売事業の共同経営を発起企図し次第に賛同者を獲得して昭和二七年一月頃にはその数も約十名に達したので、牛乳処理に使用すべき機械器具等の設備に着手し、同年八月に至り株式会社兵庫相互銀行より金五十七万円を借り入れこれを資金として冷凍機、冷蔵庫部分品五馬力モーター付機械を購入し一通りの設備を完了することができ、参加者の数も約三十三名に増加した。同年八月創立総会を開催し定款を作成しその名称を神戸市乳販売組合、出資は各組合員よりその供給を受けた牛乳一合当り金五十銭拠出してなすべきこと、なお大嶋伊三太を組合代表者と定め兵庫県知事に対して牛乳処理場開設の許可申請をなし同年九月一日付を以て期間三年(昭和三十年八月末日まで)の許可を受けて牛乳処理販売事業の経営を開始したのである。そして爾来組合員の脱退、除名、新規加入等の異動が行われたけれども右組合は引続きその同一性を保つて存続して来て現在の組合員は田村茂数、入江藤一、武田勝太郎、岡田俊数、塩住一男の五名であり、田村茂数が代表者理事長となつたが、本件動産等従前と同一の設備を使用して事業を継続し、組合債務の整理その他組合事務一切は右田村理事長において専行処理しているのである。

そして株式会社兵庫相互銀行よりの前記金員借入につき大嶋伊三太がその借主となつていることは被申立人主張のとおりであるが、右借入につき当時同組合員数名がその借入金返還義務につき連帯保証をなし、また組合員の一人である岡田俊数はその所有であつて同組合が現にその目的事業のため牛乳処理場として使用している建物につき債権者たる兵庫相互銀行のため抵当権を設定する等同組合員が協力一致して借入を達成したものであるから実質上の借主は同組合に外ならず大嶋伊三太は唯当時同組合の代表者たる地位に在つたところよりその個人名義を借主に使用したものにすぎない。従つて右借入金五十七万円を資金として購入設備し、しかも同銀行に対し組合のために保証をなした兵庫県信用保証協会において右借入金残額の代位弁済をなしその後同組合の代表者としてその債務の整理に当つていた田村茂数が組合の名において右信用保証協会の組合に対する代位弁済に因る求償請求につきその元本残額全部及び利息の大半を完済し、これにつき大嶋伊三太は右借用金債務の一部といえども自ら弁済した事実はないことに徴すれば本件動産の所有権が実質上組合に帰属し大嶋伊三太の個人所有財産でないことは明かであるのみならず、本件動産はその種類、価格に照らし大嶋伊三太の個人としての資力、信用程度を以てしては到底購入することはできない高価な物件であること並びに若し本件動産が被申立人主張の如く果して大嶋伊三太の個人所有物件なりとすればこれに対する申立人の前記強制執行に対し大嶋伊三太において拱手傍観することなかるべく必ずや或は第三者異議の訴を以てその所有権を主張し又は本件動産に対する所有権確認の訴をも提起する等その所有権を主張する積極的行動に出でたるべき筈のところ同人において右の如き所有権主張の積極的行動に出でたる何等の事蹟なく、また同人の前記組合離脱以後においてもなお組合が右諸物件の使用を従前通り継続しているのに対し一言の容喙をなしたることもないこと等を考え併せれば本件動産が大嶋伊三太の個人所有に属するものでないことは明白である。

次に民法上の組合はその成立につき諾成契約たる組合契約をなすを以て足り他に格別の方式を必要とするものでなく、組合員のなすべき出資亦必ずしも契約の前後を問わず、出資の履行方法についても明文の規定は存せず、出資の内容及び履行の方法は組合員間において随時実情に即応した方法を決定するのが一般通常の慣行であり、また組合事業に関する取引につき必ずしも組合員全員の氏名を表示することを要せずして単に組合の名称のみを表示するも支障ないものと解せられ実際取引においても組合自体の名称を以てなされる例の多いこと等に徴すれば、組合の活動が被申立人主張の如く常に厳格なる方式を履践してなされることは必要でなく、組合はその目的たる共同事業遂行に関し必ずしも定款所定通りの手続方式を実行することなく随時臨機の処置をその都度組合員の決議を以て決定実行するのを組合運営実務における一般通常の取扱例とするものであるところ、神戸市乳販売組合については現実に終始多数人が神戸市乳販売組合の名において共同して牛乳処理販売の事業を経営しているのであるから、民法上の組合たるの実体を具備した存在であることは疑のないところである。尤も前記営業許可の期限たる昭和三十年八月三十一日の経過後においては『神戸市乳』の名称を以て兵庫県知事の営業許可を受け田村茂数が代表者となつて事業を経営している団体が存在しているが右団体は神戸市乳販売組合の従前の事業設備一切をそのまま使用して牛乳処理販売業を営んでいるものであつて実質的には神戸市乳販売組合と同一の団体の継続に外ならないものである。

また被申立人はさきに申立人の本件動産に対する強制執行につき執行債務者に対する手形債権を有することを原因として配当要求の申立をなし、その後に至り右手形債権につき大嶋伊三太との間にその弁済に関する契約が成立したものとして被申立人を債権者とし、『神戸市乳販売組合こと大嶋伊三太』を債務者名義とする右契約の内容を記載した公証人山崎敬義第二十一万三千百四十四号公正証書を作成し、この公正証書を債務名義として本件照査手続をなしたものであつて、前記配当要求申立をなすことによつて被申立人は一旦はすでに神戸市乳販売組合の存在を認めていたものというべく、その後に至り右公正証書を作成したのはことさらに本件動産の大嶋伊三太の個人所有に属するものであることを主張せんがための手段を作為したものに外ならないと解せられる。蓋し若し被申立人主張のとおり本件動産が真実大嶋伊三太の個人所有財産であるならばその肩書として敢て『神戸市乳販売組合こと』と附記する所以を理解し難いところであるからである。

大嶋伊三太は申立人の神戸市乳販売組合に対する強制執行の基本たる前記調停調書の記載についてみるも当事者たる同組合の代表者として調停手続に出席し且つ右組合と列んで個人資格においては同組合の申立人に対する債務につき連帯してその責に任ずベきものなることが明らかであり、また大嶋伊三太が神戸市乳販売組合の目的たる事業運営につき使用していたと同一の印章を同人の組合事業より離脱後はこれに代わつた田村茂数において引続き同じ用途に使用しているのであるから神戸市乳販売組合なる名称が単に大嶋伊三太を指示する名称であり、神戸市乳販売組合の名によつて表示される人格と大嶋伊三太の名を以て表示される人格とが同一の自然人であると認めることは到底できないところである。

以上いずれの点よりするも神戸市乳販売組合は民法上の組合として法律上独立の存在を有するものに非ずして単に大嶋伊三太の個人資格を表示する呼称にすぎず従つて本件動産は大島伊三太個人の所有に帰属する旨の被申立人の主張は理由なきものである。

四、申立代理人提出の証拠方法と被申立人提出の証拠書類の成立に関する陳述。

甲第一乃至第十九号証、同第二十号証の一、二を提出し、証人小林敏雄、同田村茂数(第一回乃至第三回)、同岡田俊数(第一回)、同竹本一夫、同谷垣源治、同好田喜代次の各証言を援用し、乙第一、第二、及び第十号証、同第十一号証の一、二、同第十二号証の一、二、同第十三及び同第十五号証はいずれも原本の存在を争わずその成立を認める、乙第四乃至第六号証、同第七号証の一、二、同第九号証、同第十四号証、同第十八及び同第十九号証の成立はいずれも認める、同第十三号証及び同第十五号証は利益に援用する、その余の乙号証の成立はいずれも不知。

五、被申立代理人は『本件異議申立を却下する』との裁判を求めた。

六、被申立代理人の陳述並びに主張。

(一)、本件異議申立は不適法として却下せらるべきものである。

本件異議申立は民事訴訟法第五百四十四条に基き被申立人が債務者大嶋伊三太に対してなした強制執行につき執行方法に関する異議の申立をなしたものと解せられるところ、申立人は右強制執行につき手続上の当事者でもなくまた右強制執行に関する利害関係人にも該当しないものである。蓋し強制執行手続においてその利害関係人たるべきものは違法なる執行によつて正当な利益を害せらるべき当該手続当事者以外の第三者を謂うものと解すべきであつて、これを被申立人が大嶋伊三太を執行債務者としてなした前記強制執行に就いて言えば、申立人主張の民法上の組合が存在し且つ本件物件が右組合の所有に属するものと仮定した場合において執行吏が大嶋伊三太個人に対する債務名義を以て右組合所有の物件を差押えたとすれば、換言すれば右組合を以て大嶋伊三太個人と同一人なりと誤認し組合に対する執行正本に基かない執行をなしたとすれば右組合は前記法条に基く異議申立をなし得べきものといわなければならないが、申立人は被申立人のなした照査手続につき右の様な法律上の地位にあるものではないからである。

また被申立人が本件物件につき照査手続をなしたることは申立人の神戸市乳販売組合に対する強制執行につき唯単に配当要求の効力を生ずるに止り何等手続の進行を妨げるものでなく、若し被申立人の右組合に対する債権の存否及びその範囲を争わんとするならば配当異議若しくは債権存否確認の本案訴訟によるべきものであつて、民事訴訟法第五百四十四条所定の異議によることは不適法として許るされないところである。

(二)、申立代理人主張の異議理由たる事実に関する陳述。

先ず神戸市乳販売組合なる民法上の組合が成立存続する旨の申立代理人の主張につき組合契約の成立日時及び場所、その当事者氏名、組合員の加入脱退及び出資並びに持分に関する定めその他組合規約の内容に付具体的に主張することを要し若しこれらの事項の具体的主張を欠くときはその主張の組合自体も具体的明瞭を欠くものというべきところ、申立代理人はその主張の神戸市乳販売組合なる組合契約の具体的態様を示すべき前記事項につき何等釈明を尽さないものであるから申立代理人の右主張は民事訴訟法第百三十九条第二項によりその却下を求める。若し右却下の申立が認容されないとしても神戸市乳販売組合が民法上の組合として成立存続すること並びに本件物件がいずれも右組合の所有する組合財産であることは否認する。

右組合の成否に関しては昭和二十六年夏頃大嶋伊三太、田村茂数等十一、二名の者が集合して民法上の組合を設立しようという話合を始め昭和二十七年春頃までの間十数回に亘り右の中七、八名の者が集合して牛乳の共同処理場所新設事業を始めるべく先ず名称を神戸市乳販売組合と定めたが出資に関してはこれを引受けんとする者が一人もなかつたため遂に民法上の組合としては成立に至らずして終つたものであり、その後昭和三十年十二月二十一日被申立人が本件照査手続をなした当時に於ても右組合の成立はなかつたのであつて組合若しくは組合代表者等の記載のある文書の存在するものあるも単に書面の形式上組合若くは組合代表者という如き名称を使用しているにすぎずもとよりこれを以て申立人主張の民法上の組合の成立を確証するものではない。神戸市乳販売組合とは大嶋伊三太がその個人資格において経営する牛乳処理販売事業につき使用した同人の呼称たるに止り同名の民法上の組合を表示するものではない。すなわち神戸市乳販売組合とは大嶋伊三太個人を表示する呼称である。次に本件物件の帰属については大嶋伊三太が自己及びその近親者より出捐せられた自己資金に同人が個人資格において株式会社兵庫相互銀行西支店より借入れた資金を加えこれを以て神戸市長田区にある岡本牧場主と大阪市の昭和機械とからそれぞれ買受けた物件なのである。もつとも右昭和機械より買受けるについては買受名義人は神戸市乳販売組合となつているけれども元来神戸市乳販売組合なる呼称は大嶋伊三太個人を指称するものであること前記のとおりであるから本件物件は大嶋伊三太がその個人資格において所有するところであり、しかも大島は買受後右物件を神戸市乳販売組合なる独立別個に存在する組合に対して譲渡若しくは貸与した事実は毫も存しない。

なお被申立人が申立人の神戸市乳販売組合に対する強制執行につき申立人主張の如く配当要求の申立をなしたことはこれを認めるがこれは申立人が先に本件物件につき差押をなしたので被申立人は取敢えず右差押に便乗して配当要求の申立をなした全く便宜の処置に外ならないのである。そしてやがて申立人のなした強制執行における執行債務者は大嶋伊三太個人でないことが判明したので被申立人には改めて本件照査手続をなしたのである。したがつて若し申立人の強制執行が大嶋伊三太を執行債務者とするものであつたならばもとより配当要求の申立を維持する筈のものであつたのである。

然らば被申立人が大嶋伊三太に対する強制執行として先に申立人が強制執行につき差押をなした大嶋伊三太所有の本件物件につき照査手続をなしたのは適法であつて何等の瑕疵をも帯びるものではないことが明かであつて本件異議は理由なきものである。

七、被申立代理人の提出した証拠方法と申立代理人提出の証拠方法に関する陳述及び主張。

(一)、乙第一乃至第六号証、同第七号証の一、二、同第八乃至第十号証、同第十一及び第十二号証の一、二、同第十三乃至第十九号証を提出し、証人芝文俊、同石上勇平、同赤川弘、同山下勇、同大嶋伊三太、同岡田俊数(第二回)同木村茂(第一、二回)の各証言、並びに被申立人本人尋問(第一、二回)の結果を援用し、甲第一乃至第六号証、同第八及び同第十乃至第十五号証同第十七、同第十九号証はいずれも成立を認めるその余の甲号証はいずれも不知と述べたほか、証人田村茂数の証言につき神戸市乳販売組合に関する紛糾は同証人の策謀がその主因をなすものでありその悪辣厚顔を以て法廷において数々の偽証を敢てするのみならず他の証人の偽証を教唆し更に執行吏の懐柔さえも企てるに至つたのであつてその証言の措信すべからざるは本件における第一、二回の証言内容を比較吟味すれば明かである。甲第四号証は大嶋伊三太において神戸市乳販売組合という民法上の組合が存在するや否やにつき明確なる認識を有したものと認めるに足らず、甲第八号証もこれを以て神戸市長田区長において神戸市乳販売組合なる民法上の組合の成否を確認したものと解することを得ないし、同第九及び第十号証並びに乙第六号証はいずれも民法上の組合としての神戸市乳販売組合の存在を確証するものとなすに足りないものである。

理由

申立人が先にその名称を佐用郡酪農農業協同組合と称し兵庫県佐用郡佐用町佐用三の一三八番地の二に事務所を有していたが昭和三十年七月十八日姫路市今宿八百三十番地に事務所を移転するとともに名称を西播酪農農業協同組合と改めたものであることは記録上明かである。

そして成立に争のない甲第二及び同第四号証によれば申立人が佐用郡酪農農業協同組合と称していた当時神戸簡易裁判所昭和二十八年(メ)第一一五号売掛代金調停事件につき同年十二月十六日成立した調停調書の執行力ある正本に基き金八万二千二百円の金銭債権の強制執行のため神戸地方裁判所執行吏小林敏雄に委任して神戸市長田区五番町一丁目七番地神戸市乳販売組合営業所において本件物件の差押をなしたことが認められ、成立に争のない甲第一号証及び乙第五号証によれば、被申立人は神戸地方法務局所属公証人山崎敬義作成第二十一万三千百四十四号債務承認履行契約公正証書の執行力ある正本に基き金四十三万二千百二十円の金銭債権の強制執行のため前同執行吏に委任し同執行吏において昭和三十年十二月二十一日前記差押と同一場所において本件物件につき照査手続をなしたことが認められる。

ところで申立人のなした前記強制執行の債務名義たる調停調書の正本(前記甲第四号証)によれば前記調停事件につき、当事者の表示として申立人佐用郡酪農農業協同組合、右代表理事水鳥栄一、相手方神戸市長田区五番町一丁目七番地神戸市乳販売組合、右代表理事大島伊三太、相手方神戸市長田区二葉町四丁目一五六番地大島伊三太と記載せられ、期日に出頭した当事者の表示として申立人組合代理人間嶋権八、相手方組合代表者兼相手方大島本人大島伊三太と記載せられ、調停条項として

一、相手方組合は申立人に対し昭和二十八年六月及び七月中に買受けた牛乳代残額金八万二千二百円の支払義務あることを認めこれを昭和二十九年一月より五月迄の間毎月末日限り内金千円ずつを、同年六月から十二月迄の間毎月末日限り内金三千円ずつを、翌三十年一月から十二月迄の間毎月末日限り内金五千円ずつ(但し最終回は金千二百円とする)を、いずれも申立人組合代理人姫路市岡町二四番地間嶋権八法律事務所え持参又は送付して分割支払すること、但し右の分割払を二回分以上遅滞した時は分割弁済の利益を喪い既済額を控除した残額金を即時皆済すること。

二、相手方大島伊三太は申立人に対し前記相手方組合の債務につき連帯保証の責に任ずること。

三、調停費用は各自弁のこと。

と記載せられてあり、右記載によれば主債務者を神戸市長田区五番町一丁目七番地神戸市乳販売組合とし、大島伊三太をその連帯保証人として、佐用郡酪農農業協同組合が右両名に対し金八万二千二百円の金銭債権を有する旨の表示がなされていることが明らかであり、これに前記甲第二号証及び証人竹本一夫の証言を併せ考えれば、申立人のなした前示強制執行が前記調停調書の記載上主債務者とせられた神戸市乳販売組合に対する同調書記載の前記債権の満足実現のために同組合を執行債務者となす意思を以てなされたのであつて、同調書の記載上右組合とならんで申立人に対し連帯保証債務を負担する大島伊三太を執行債務者として同人に対する右記載の申立人の債権の満足実現をはかる意思の下になされたものではないこと、並びに申立人より強制執行の委任を受けた前記小林執行吏も当該債務名義の形式的記載上きわめて明確な二人の債務者の一人たる神戸市乳販売組合に対する強制執行なのであつて他の債務者たる個人資格における大嶋伊三太に対する強制執行ではないものとして右組合に属する財産と認めた本件動産の差押をなしたものであることが明白であるから、申立人のなした前示強制執行につき執行債務者として手続当事者たりと認むべきものは神戸市乳販売組合自体であり、同一債務名義上連帯保証債務を負担すべきものと表示せられている個人資格における大嶋伊三太を執行債務者となしての執行手続となすことは到底できないところというべく、神戸市乳販売組合なる名称に相応する実質的団体が或は法人格を有せず若しくは組合契約が民法上未だ成立せざるものと認められ又は無効と解すべきものとせられるに因り未だ法律上存在するものと認むるを得ないからといつて唯それだけの理由により当該強制執行における手続上の当事者は直ちに大嶋伊三太個人なりとなすことを得ないものと解せられる。蓋し執行手続においてその当事者が具体的に果して何人であるかという当事者の確定は当該の場合における債務名義及び執行文の形式的記載自体と執行債権者の何人に対して当該強制執行手続を追行しようとするかの具体的意思とを標準として判定せらるべきものであり、かくして確定せられた当該執行当事者がその形式外観において自然人でなく、法定の手続を経、法定の組織要件を具備して始めて法律上の存在を取得すべき法人と認められる場合若しくは契約の効果として法律上の存在を取得すべき民法上の組合と解せられるものに該当すると認められる場合等にあつてはその設立経過に関する実体法上の関係については執行機関において実質的審査判断をなすべき限りではないから具体的場合の執行手続において当該執行名義の形式的記載自体によりては知ることを得ずただ手続外に存する事情を基礎としてのみ了知判断の可能な事項、たとえば当該執行における執行債務者が少くも形式上は明らかに民法上の組合若しくは法人等要するに自然人以外の社会的団体なりと認められる場合にその設立手続の不存在又は手続の瑕疵の存在等を主張しこれを理由として当該執行手続当事者の何人なりやを定める如きことの許るされないのは明白であるからである。

元来手続当事者の実質的な存在、不存在、或は執行当事者適格の存否とかは常に先ず当該の場合において現に当事者とせられているものが果して何人であるかゞ決定せられることを前提として必要とし、かくて決定せられたものに関して始めて判定可能なことがらであることに徴しても実体法上の若しくは社会的存在としての成否が手続当事者確定の標準となり得べきものでなくむしろ逆に先行して確定せられた当事者についてその実体法上の若くは社会的存在としての成否が問われるべき関係にあることが明らかである。

次にいずれも成立に争のない甲第十九号証及び乙第二号証同第四号証、同第七号証の一、二によれば、被申立人は神戸簡易裁判所昭和二十九年(イ)第六八号手形金請求和解申立事件につき昭和二十九年三月二十三日成立した和解調書の執行力ある正本に基く強制執行のため前記小林執行吏に執行委任をなしたのであるが右和解調書の記載によれば当事者として申立人辻本哲久、相手方、神戸市長田区五番町一丁目七番地、神戸市乳販売組合こと大嶋伊三太と表示され、和解条項として『相手方は申立人に対し金三十三万二千四百円也の支払義務あることを認める。これを昭和二十九年三月末日以降毎月末日を期し一回金五万円也ずつを向う六回に支払い残金三万二千四百円也を最終七回目支払うこと。若し相手方に於て右分割金の支払を一度にても遅怠したときは相手方は期限の利益を失い既払額を控除した残金を一時に支払うこと』。とあり被申立人は右和解調書の記載上神戸市乳販売組合に対する右条項記載の額の金銭債権を有するものとして神戸市乳販売組合を執行債務者として同組合に属する財産に対し強制執行をなさんとの意思を以て前記執行吏に執行委任し、同執行吏は昭和三十年十一月十一日神戸市長田区五番町一丁目七番地の神戸市乳販売組合営業所に臨んで組合に属する財産につき差押をなさんとしたが同所において出会の田村茂数が大嶋伊三太はすでに昭和二十八年十二月十四日組合から除名され現在神戸市乳販売協同組合として代表理事田村茂数が営業をなしている旨申し述べたため執行不能として手続を終了したことが認められ、また被申立人が前記小林執行吏に委任して本件動産につき照査手続をなすに際しその債務名義となつた前記公正証書正本(乙第五号証)の記載によれば、当事者の表示としては、神戸市須磨区妙法寺車字吉六八番地、牧場経営業辻本哲久こと債権者辻本薫大正三年八月生、神戸市長田区五番町七番地牛乳販売業(神戸市乳販売組合元代表理事)債務者大嶋伊三太、明治参拾四年七月生と記載せられ、証書本旨の第一条には『債務者大嶋伊三太は債権者辻本薫に対し昭和二十八年十一月一日付私署証書に基き左記借用金債務の負担あることを承認し本証書に之を確認したり。一、金参拾参万弐千四百円也』と記載せられていることが認められるところ、右記載を以てすれば個人たる資格における大嶋伊三太を債務者としてこれに対し本件被申立人たる辻本薫が金三十三万二千四百円の債権を有する旨の表示が形式上も明確且一義的になされていることが明かであつて、以上認定の事実と被申立人本人尋問(第一、二回)の結果を綜合すれば、被申立人は右公正証言の記載上債務者とせられた個人資格における大嶋伊三太に対する同証書記載の前記債権の満足実現のため右大嶋伊三太を執行債務者となし、同人が個人資格において所有する財産につき強制執行をなす意思を以て前記小林執行吏に執行委任をなしたものと認めるに十分である。しかも右委任を受けたる小林執行吏においては既に冒頭認定のように先に本件申立人が前示神戸市乳販売組合に対する強制執行につき差押をなした本件動産に対し照査手続をなしたものであるから、右照査手続は小林執行吏においてその基本たる債務名義上に記載せられた前認定の表示を誤解し、神戸市乳販売組合を以て当該受任事件の執行債務者たるものとなしたか然らざれば本件申立人のなした先行強制執行手続上の債務者を個人資格における大嶋伊三太なりと誤解したるかのいずれかに起因するものと解せられるのであつてそのいずれの場合たるを問わず、本件申立人のなした先行強制執行における執行債務者を以て神戸市乳販売組合なりと認むべく個人資格における大嶋伊三太は到底右手続の当事者とは認められないこと前説示の如くである以上右照査手続は不適法といわなければならない。若し被申立人において申立人のなした前記先行強制執行において差押の対象となつた本件動産の所有権は右執行当事者とせられている神戸市乳販売組合に非らずして大嶋伊三太の個人所有に属するものなりと判断したりとするも、右執行手続上の第三者たる地位にある大嶋伊三太において自己の所有権を主張して第三者異議の訴を以て本件動産に対する申立人の強制執行の排除をなすか、被申立人自身において本件動産につきその譲渡若くは引渡を妨げる実体上の権利を主張して第三者異議の訴を提起するか若しくは右強制執行につき利害関係を有する第三者として執行方法に関する異議の申立をなし得る場合に該当しない限り先行執行手続における具体的執行の目的物に関しその実体上の帰属関係等を争う余地はなく、いわんや自己の判断を前提として、すなわちたとえば本件動産は実体上個人資格における大嶋伊三太の所有に属することを主張し該物件につき被申立人が個人資格における大嶋伊三太に対して有する債務名義に基き強制執行をなすことは許されないところである。

そして本件照査手続が違法なることは前示のとおりであるけれども前記甲第一号証及び乙第五号証並びに証人小林敏雄の証言によれば執行吏たる職務権限を有する者によつて形式的手続要件は一応これを履践遵守して行われたものと認められるから未だ当然無効の執行行為とまでは認められず、果して然らば右照査手続にして存続する限り被申立人は申立人のなした強制執行につき配当要求をなしたる効力を享けるべきこと民事訴訟法第五百八十七条の定めるところであり、しかも前記甲第一号証によれば小林執行吏において執行債権者たる被申立人のために本件動産以外に新に差押をなしたる動産は一も存しないことが明かであるから、右配当要求の効力により差押債権者たる申立人がその差押債権の満足につき不利益なる地位に陥つたことは配当手続の開始を待たずして既に明かであるから申立人は右照査手続に関し民事訴訟法第五百四十四条所定の異議を申立つべき適格を有するものと解するのが相当である。

被申立人は神戸市乳販売組合とは大嶋伊三太個人を表示する呼称にすぎないとなし、神戸市乳販売組合と大嶋伊三太との同一性を主張し申立人のなしたる前示強制執行において執行債務者たる者は神戸市乳販売組合即ち個人資格における大嶋伊三太に外ならないと主張する。しかしながら神戸市乳販売組合なる呼称が通常の知識経験を有して社会生活を営んでいる一般人の間において取引上疑を挾まない程度において大嶋伊三太個人を指示する名称として諒解せられ通用していたことを認めるに足る証拠なく、却つて成立に争のない甲第五号証、同第六号証、同第十四号証(証人岡田俊数の尋問に関する部分)、同第十五号証、同第十七号証、乙第一号証、同第六号証、同第九号証、同第十一号証の一、二、同第十二号証の一、二、及び同第十三号証、証人岡田俊数の第一回証言により真正に成立したものと認められる甲第九号証、証人好田喜代次の証言により真正に成立したものと認められる甲第十六号証、証人田村茂数の第二回証言並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第十八号証、証人田村茂数の第一回証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証に証人谷垣源治、同石上勇平、同大嶋伊三太、同好田喜代次、同赤川弘、同山下勇の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合考察すれば、昭和二十六年五、六月頃から大嶋伊三太及び田村茂数等の提唱によつて神戸市及びその近郊の牛乳原乳の集荷卸売業者並びに市乳小売業者の間に漸く牛乳処理場施設の共同経営の気運が高まり数回に亘つて同市兵庫区松本通二丁目所在の願成寺に賛同の有志者が会合し懇談意見の交換をなすうち次第に処理施設を共同開設し牛乳処理販売事業を共同経営しようとの議が熟し、昭和二十七年春頃に至り前記のように会合を重ねて来た大嶋伊三太、田村茂数、岡田俊数、谷垣照典、岡本常三郎、池田豊、山下勇、赤川徳蔵、入江藤一、石上勇平、大向舜一、武田勝太郎等の間において、各自金五万円宛を出資して牛乳処理作業に必要な機械器具類を購入設備して牛乳処理場を開設し神戸市乳販売組合の名称を以て牛乳処理事業を営もうとの合意が成立したこと、このようにして牛乳処理事業の共同経営実現の目的に一致するに至つた前記の者等の間に共通する当初からの意図としては右処理場の共同経営の形態として単純なる民法上の組合契約を締結するに止らず、たとえば中小企業等協同組合法に基き設立せられる各種の協同組合の如く法定の組織を完備し所定の設立手続を履践し、登記をなすにより法人格を賦与せられる組合を設立しこれを以て処理場の経営主体たらしめるにあつたこと、その意図するところの右の様な組合が未だ設立せられざるうちに、これに先立つて既にやがて近く法人たる組合が設立せらるべきことを予定して大嶋伊三太及び田村茂数両名においては神戸市乳販売組合代表理事、同組合長若しくは同組合理事長或は専務理事等形式上同組合の代表資格を表示するものと認められる名称を使用して(一)、右処理場開設の場所に充てる目的を以て岡田俊数との間に昭和二十七年四月二十三日付を以て岡田所有の同市長田区五番町一丁目七番地上、木造瓦葺二階建家屋の中階下部分約二十二坪七合五勺を賃料一ケ月金三千円、毎月払いと定め期間は一期五年とするが再契約を妨げない旨の賃貸借契約を締結し、(二)、神戸市乳販売組合の名において谷垣源治から同年八月十六日付を以て分離機(セパレーターと通常呼ばれている)一基(別紙物件目録第七号)を賃借する契約を締結し、(三)、また大阪市内の業者からルームクーラー、牛乳処理機等数種類の機械を買受け、(四)、更に神戸市内の新生製作所なる業者より冷凍機その他附属機械一切を具えた冷蔵庫一式を金五十万円で買受けた上右機械器具等を前記賃借建物内に設備し以て本件動産等より成る牛乳処理場の物的施設を一応整えるに至つたこと、かくして整備せられた施設を営業場所とし、大嶋伊三太を営業名義人として同人宛てに兵庫県知事が昭和二十七年九月一日付兵庫県指令衛第七五四一号により期間を三年と定めて牛乳処理営業の許可をなしたこと、並びに上記物的施設はすべて将来設立せられて営業主体となるべき法人格を有する組合のためにする営業の準備として、該組合未成立の時期において既に、将来設立せられるに至れば組合の名称とせらるべき神戸市乳販売組合の名において取得せられたものであつたところ、前示各自金五万円宛の出捐を履行する者が一人も居なかつたため結局大嶋伊三太において或は自己の手持資金を拠出し若しくはその個人名義を以て兵庫相互銀行より借り受けた金員によりその代金、賃料等に充てるのやむなきに至り、また前記処理場における原乳集荷、その処理並びに市乳の卸売等牛乳処理事業及びこれに附帯する一切に関する事実上の運営処理も専ら大嶋伊三太が田村茂数の経理等諸般の事務処理に関する補佐を得つつ神戸市乳販売組合の名称においてこれを主宰実行して昭和二十九年一月頃に及び、それ以後は田村茂数が同一施設を使用し引続き従前の牛乳処理事業を主宰運営し、しかも従前と同様神戸市乳販売組合の名においてこれをなしたものであり、前記営業許可期間が満了するや更に田村茂数の名義による昭和三十年九月二日付申請に基き同県知事は兵庫県指令防第五〇九一号により同年十月十五日付を以て前記牛乳処理場の施設を営業場所とし神戸市乳田村茂数を営業名義人とし、期間を昭和三十三年十月十四日までと定めた同人宛の牛乳処理業の営業許可をなし、因つて前記処理場施設を使用して行う牛乳処理事業はその実質上の関係において従前と全く同一の状態において継続遂行せられていることが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。そこで以上認定の事実を綜合しこれに弁論の全趣旨を併せ以て前記処理場の物的施設の利用管理運営等に関する神戸市乳販売組合なる名義と大嶋伊三太若しくは田村茂数との法律上の関連の如何を考察すれば、成程神戸市乳販売組合なる名称を有し且つ法定の組織要件を具備し所定の手続を履んで設立せられ登記を経由して法人格を有する団体たる組合は遂に成立するに至らなかつたけれども、牛乳処理場の共同建設、同処理場による牛乳処理事業の共同経営を目的とするいわゆる民法上の組合契約の成立したることはこれを認めるべく、唯大嶋伊三太を除く前掲記の者等全員の組合契約不履行に因り組合員一人当り金五万円宛の金銭出資をもつて先づ構成せらるべかりし筈なる組合財産が当初より欠缺しその目的事業運営の資金に充つべきものが現に存在しない状況に直面するに及んで右組合の業務執行者たる地位にあつた大嶋伊三太(同人及び田村茂数が右民法上の組合契約において少くも黙示的には組合業務執行者と定められていたことは上記各認定の事実を綜合して容易に推認し得るところである。)が止むを得ずその個人所有の財産を資金として組合のために出捐し事実上大嶋伊三太が単独で組合の名において所要設備を購入し同組合の名を以て且つ組合業務執行者たるの資格において同組合の目的事業を追行するの意思を以て牛乳処理並びにそれが附帯事業を実行して昭和二十九年一月に至り、その後は田村茂数が大嶋伊三太の従前の地位と同一の地位に就くに至つたものと解するを相当とすべく、かく解するときは前記処理場なる統一的施設を組成する各個の物件中組合の名義を以て買受けられた物件(本件動産や目録第七号記載の分離機を除いて上記の如き物件に該当すること前認定の通りである。)は買受により当然当初より右組合に属する組合財産となすべきものであつて、その代金が事実上経済的には大嶋伊三太個人の所有財産より直接支払はれたりとの一事を以て直ちに法律上当然に大嶋伊三太の所有に帰属するものとなすことはできない。そして大嶋伊三太の右出捐は右組合の内部関係として別途清算処理せらるべく填補せらるべきものである。

然らば神戸市乳販売組合なる名称が単に大嶋伊三太個人の呼称であつて両者は同一であり、同組合の名において他より取得せられた本件動産等は当然大嶋伊三太の個人財産に属するとなす被申立人の主張は採用することができない。

なお本件動産中別紙目録記載第七号の分離機一基は谷垣源治の所有に属し神戸市乳販売組合は単に右谷垣よりこれを賃借するものなること前認定のとおりであるけれども申立人のなした前示強制執行において右分離機も神戸市乳販売組合において占有する同組合所属の財産として現に差押がなされているものであるから被申立人のなした本件照査手続につき前示違法理由に基きその不許の宣言を求むる本件異議に関しては爾余の本件動産たる物件と区別して取扱うべき理由はないと解せられる。

仍て申立人の本件異議は理由あり、被申立人の委任に基き前記小林執行吏が本件動産につきなした照査手続は違法にして許るされないものであるから異議の手続費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 岩本正彦 日野達蔵 吉田秀文)

物件目録

一、瓶詰機 一台

二、牛乳消毒機(パス)四分の一モーター附 一台

三、四尺に三尺位鉄製消毒機 一台

四、三馬力モーター附属品一切 一台

五、高さ五尺位ボイラー煙突共(附属品一切共) 一基

六、洗瓶機(四分一モーター付及び附属品一切とも) 一個

七、分離機(日立一馬力モーター附) 一台

八、三尺に六尺位四枚戸付物入箱 一個

九、弐拾五貫秤 一個

一〇、片袖卓子 一個

一一、廻転椅子 一脚

一二、三尺に六尺位鉄板物置台 一個

一三、三尺角二段鉄製物置台 一個

一四、鉄製一斗罐 一個

一五、牛乳瓶 三百個

一六、輸送罐 五本

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